ガソリンスタンドでバイトしていたのは、19か20歳の頃。
バブル経済期だった。当時はたいして恩恵を感じられなかったが、今思えば好景気の余裕めいたものはあった。未経験の小娘でもバイトにありつくのは簡単で、原付免許すらないのに、ガソリンスタンドで働き、自転車で通っていた。
セルフが主流になる前の時代で、常時3~4人のスタッフがいた。
夏には、気前のいいお客様が給油後「これで何か飲み」と、千円札をくれたりした。ありがたく頂き、バイトの面々で、店の自販機で好きなものを買って飲んだ。(今気付いたが、余ったお金はどこへ消えていたのだ)
ある日のこと。
発端は知らないが、怒鳴り声が聞こえた。
男性客が激怒していて、私より1つか2つ年下の女の子が立ちすくんでいた。社員のにーちゃん(30歳位だったと思う)が、すっ飛んでいった。
私が茫然としているうちに彼が事をおさめ、客は怒りながらも車で去っていった。
にーちゃんは、去っていく車の方へ深々と頭を下げていたが、やがてキッと頭を上げると「二度と来るなッ!」と叫んだ。そしてバイトの女の子の元に歩み寄り「気にするな。頭おかしい奴や」と言った。
かっこよかった。「兄貴!ついていきます!」な場面だった。
にーちゃんとはシフトがあまり合わず、私は数ヶ月で辞めてしまったので、人柄はよく知らないままだった。
バイトとはいえ、働き始めたばかりの若いうちに、ああいう上役を見てしまうと、幻滅する機会が、人より多分増える。非正規労働者でいてさえそうだった。
だからいまだにあの場面を覚えている。そして「見るんじゃなかった」と、30代後半くらいまで思っていた。