街角で真新しい原付を見かけると「最後の原付を買ったのかな」と思う。
2025年11月からの新しい排ガス規制をクリアできる原付の製造は、不採算事業になるとかで。
50ccの原付バイクは。2025年10月をもって製造終了となる。
一昨年頃から、世話になってきたバイク屋の店主と、この件を何度か話してはきた。
結論はいつも同じだった。今のところ問題なくても長距離を走っているので、急にガタがくることは有り得る、入手できるうちに買っておいた方がいい、と。
尤もなご意見なのだが、踏ん切りがつかなかったのは。現在乗っている原付、ホンダタクトベーシックが、私の約30年の原付歴で性能的には一番の「大あたり」であり、複雑な愛憎があり、何より私の貧乏性、そして実際に貧乏だからだった。
購入時は。スズキの原付から10数年ぶりのホンダへの乗り換えだった。
そしてすぐ後悔した。
ホンダの給油手順は。足下の蓋を開けると給油口、給油口の鍵は原付のキーなので、キーを外して差し込んで回す。
シートを上げれば給油口というスズキの手軽さとは大違い。
給油後、給油口をはめ直す位置が少しでもずれているとキーが回らない。蓋に砂利が挟まっていたりすると蓋が開かない。
シート下のメットインのスペースもハンドル下の物入れも、スズキより狭い。
買って早々、次はスズキを買うと決めていた。2015年のことだった。
そして〈次〉にタイムリミットがあるとわかった時。メーター3周目、3万キロ超走ってそれを感じさせない程、快調に走り続ける原付を捨てる決断ができなかった。
近い将来、この家を処分すると漠然と計画している。そうなると移動手段はほぼ原付という生活は続かないかもしれない。それなのに新品の原付を買うのか、という迷いもあった。
逡巡するうちに。スズキは50cc原付の製造期限前に撤退し、アドレスV50の新車を購入する機会を永久に逸した。
そして遂に2025年10月になった。
オイル交換で出向いたバイク屋で。ホンダの50cc原付の在庫に「売約済」の紙が貼られているのを見ると、心が揺らぐ。正直焦る。
あと数年はここで地道に働いて資金を貯めるしかないのだから、通勤手段として「最後の原付」を確保する方が現実的ではないのか。
110cc超の車体で50cc程度のパワーに造られた原付に、原付免許で乗れることにはなっているが。50ccの原付とは別物だろう。
そもそもなんでこんな目に遭わなきゃならないんだ。
50cc超のビッグスクーターやバイクを扱えない、小柄で非力な人間はこの先どうすればいいんだよ。
ーーという慨嘆は。当事者以外には知ったことではない。
50ccの原付が滅ぶ、という話を聞いてから。原付って私みたいだ、と思う。
道路の端を慎ましく走っているつもりで。車から見れば邪魔だろうけど、車ほど危険じゃないし排ガスも少ないし、たいてい端っこ走ってるし、そんなに迷惑かけてないよね?なはずが。
いつの間にやら、少数派になり、時代遅れになり、迷惑って程でもないだろと思っていたら、ダメ出しされるお荷物と化していて、途方に暮れる。将来は先細りで真っ暗だ。
厳しい現実を見据えて、長期的な視点を持って、よく考えるべきだったのに。場当たり的で、気付いた時にはどうにもならなくなっている私の人生とも、原付をめぐる現況が重なっているように思える。
原付で気軽に出掛ける生活ができなくなる。身軽に転職しようとしても雇ってもらえなくなる。
今までのような生き方はできなくなる。
とはいえ。
10年苦楽を共にしてきた(始めから気に食わなかったが近年ようやく愛着が湧いてきた)どこも悪くない愛車を処分する手続きをしてバイク屋に置き去りにし、スズキの原付で颯爽と走り去る自分は、想像がつかない。
それが正しい選択だったのだろうが。今更、でもある。
10年後も原付乗りでいたければ、新車を購入するべきだが。
10年後もこの家から近隣の職場へ通勤している生活は望んでいない。
時折。とうに製造終了になった古い原付を見かけて「まだ走ってるんだ」と、半ば驚き半ば呆れることがある。
あれらの原付も「大あたり」の原付で、まだ走れているのだろうか。私の原付は、ああいう〈恐竜〉の類になれるだろうかーー。
2025年10月。
数多の50ccの原付乗りが、嘆息し、迷い、決断し、50cc原付が滅びつつある世界で、今日も路肩を走っている。
私もその1人。